映画批評

【感想】映画『新聞記者』は、政府のタブーや、もみ消しに切り込む良作!

映画『新聞記者』は、非常に見応えのあるかなりの良作だった。

2時間という長丁場を、飽きずに見続けられる映画はそれほど多くはない。

これほど政治に深く入り込んだ映画は、いままでまったく無かった。

政治の闇に切り込んでいく映画としては、かなり画期的だと思う。

 

この映画は公開される前、あまり大きく露出することがなかった。

松坂桃李や本田翼など、有名俳優が出演しているにも関わらず、取り上げるメディアは、ビックリするほど少なかった。

内容が内容なだけに、かなりの報道規制があったように思われる。

あるいは、参議院議員選挙を控えているというのもあるのだろうか?

 

日本の社会派エンタメ作品としては、ものすごく挑戦的な内容である。

政府関係者が、この映画に神経を尖らせたとしても不思議ではない。

あくまでフィクションという触れ込みだが、実際に起きた出来事を想起させる内容が次々と出てくる。

政府関係者によるレイプ事件を女性が顔出しで訴えるものや、大学新設にまつわるさまざまな憶測など、現実からヒントを得ている、

ようにしか思えない部分がいくつかある。

 

この映画を観て初めて、内調(内閣情報調査室)という組織を知った。

内調という存在自体、あまり表になることはない。

主人公はエリート官僚で、外務省からの出向により内調に所属している。

内調の仕事について、映画では薄暗い部屋の中、異様な雰囲気で描かれている。

主人公の上司が放ったこのセリフは、とても印象深い。

「この国の民主主義は形だけでいいんだ!」

 

主人公の上司の振る舞いはいちいち怖い。

子どもが生まれることを急に問いかけたり、出産祝いを差し出したり、いろんな意味が含まれていて、聞いただけでゾッとする。

官僚は頭がいい分、こうやって腹の内を探るのか、なんて勘ぐったりもする。

 

新聞記者が闇を暴いていく展開は、とてもスリリングである。

国家権力に立ち向かうということは、すごく勇気のいることだと思う。

自分にはとてもこんな仕事はできないし、やりたいとも思わない。

日本という平和な国にいるのに、なぜ危険な方向に突き進んでいくのか、正義感なんて捨てておとなしくした方がいい、わたしはそんな風に思ってしまう。

 

ラストはビックリするくらい唐突に終わる。

その後については、観客に委ねるという意味なのかもしれない。

話の流れからすれば、このあと起きることは、悲劇の連続である。

おそらく普通の制裁では済まないだろう。それ相応の罪に問われるように思われる。

あるいは家族に何かがあるかもしれない。

 

日本は普通に暮らしていくにはとても平和な国だけど、触れてはいけないもの、タブー視されることは確実に存在していて、それを暴こうものなら、たちまち睨まれることになる。

政治の世界には、深い闇が横たわっている。

これほど重厚なテーマを、エンタメ作品として作り上げた製作者たちには、大きな拍手を送りたいと思う。

 

この映画を見ると、政治に関するさまざまな危険や闇が浮き彫りになる。

フィクションではあるけれど、似たようなことは現実に繰り広げられていると思われる。

国家にまつわることは、こんなにも恐ろしいものなのだろうか?

国家の機密に関わる仕事というのは、恐ろしくてとてもできるものではない。

 

いろんなことを考えさせられる映画である。

ただ1つはっきりさせなければならないのは、この映画を見て、現政権や政治家はダメだと結びつけるのは、少し短絡過ぎると思う。

特にこの映画は、レイプ事件や大学新設問題など、現政権を匂わせる描写があちこちに散りばめられていて、政権批判の映画と捉えられる向きは大いにある。

映画評で称賛している人たちの面々を見ても・・・、ウーンと思う気持ちもなくはない。

政治の闇をあぶり出す、という意味では面白い題材だけど、だからと言って、新聞記者や官僚を擁護するつもりにはなれない。

この映画はあくまで、新聞記者や官僚目線で見た、国家や政治の闇である。

 

これはあくまで個人的な意見だけど、政治家よりも新聞記者や官僚の方が、もっとひどいことをしているような気がする。

政治家は表に立っている分、まだきちんと振る舞っているように思う。

記者会見で、政治家と新聞記者がやりあっている様子を見ても、マスコミの方に問題があると感じる部分は少なからずある。

新聞の誤報やミスリードなど、正直言って目に余るものが多い。

映画では、闇を暴く敏腕の新聞記者として描かれているけれど、実際の新聞記者がやっていることは、果たしてそれが正義なのか、足を引っ張っていることに終止していないか、と感じることが多いのだ。

 

官僚にしてもわたしの考えは同じである。

官僚は、忖度や空気を読むこと、政治家の意向を汲むことに関しては、とてつもない能力を発揮するけれど、一方で政治家がノーと言えないように、仕向けているという側面があることは確かである。

政治家の考え方がコロコロと変わったり、意味不明のタイミングで増税が取り沙汰されるのは、官僚にいろいろと吹き込まれている面は大きい。

官僚は本来政治家の部下である。

形の上では、政治家がリーダーシップを取って指揮していかなければならない。

ところが実務は官僚でなければできない。

政治家が変わってもいくらでも回っていくけど、実務を担っている官僚がいなければ、日本は回っていかない。

政治家がいかに官僚とうまく付き合うのか、国をうまく回す上で重要なポイントである。

ただ仲良くしているだけでは、政治家は官僚の言いなりになってしまう。

官僚の考えを見通して、きちんと正していけるのか?

政治家は見えないところでも、いろいろと重責を担っているように思う。

 

政治家批判をするのもいいけれど、この観点をきちんと見ていないと、見誤ってしまうことがあるように思うのだ。

政治家と官僚がいかに裏でバチバチとやりあっているのか、わたしはそれを映画にした方が面白いように思う。

この映画では国家や政治の闇が描かれているけれど、わたしはむしろ、新聞記者や官僚のほうが闇は深いと思っている。

いや、新聞記者や官僚が、カオスにさらに拍車をかけている、といった方が正しいような気がする。

 

民主主義はさまざまな意見が発信できる一方で、物事がなかなか前に進まないという負の側面もある。

アメリカや中国を見ても、独裁的に物事を前に進めた方が、意思決定にスピード感があって、結果的に物事がうまく回っていっている、と感じる部分が少なからずある。

何が何でも反対とか、反対のための反対する、議論に応じずに一歩も譲らない、みたいな場面を目の当たりにすることがあり、民主主義が1番良い、とは言えない面もあると思うのは、わたしだけだろうか?

 

映画のような、良心的な新聞記者や官僚もいるとは思うけれど、わたしはそればかりではないような気がしている。

これを見てもし政権批判をするようなことがあるとすれば、物事を一面的にしか見ていないのではないだろうか?そんな風に勘ぐってしまったりする。

 

今度、政治家目線で、映画を作ってもらえないだろうか?